こんにちは、マスラオです。
今月27日、さくらももこさんが8月15日に乳がんのため逝去されていたことが
さくらプロダクションから発表されました。
私自身、静岡市出身ということもあり、幼い頃から、
ちびまる子ちゃんだけでなく、「さくらももこ」という存在自体が身近でした。
私が、さくらももこという存在を強く意識するようになったのは小学校高学年から
中学校にあがるくらいの時期だったと思います。
当時、家にあったさくらももこのエッセイを読んでどハマりしました。
人生であれだけ一人の作家にハマったことは、数回しかありません。
学校の図書室で読むだけではあきたらず、
親と一緒に本屋に行ったら、必ずさくらももこのエッセイを1冊買ってもらい、
そうして、徐々にさくらももこコレクションを増やしていきました(笑)
今でも、私の実家の本棚には、あの頃買ってもらったさくらももこのエッセイが並んでいます。
さくらももこのエッセイの魅力は、何と言っても、
少女(時には少年)のような感受性がありながら、時には世界に対して驚くほど
ひねくれたものの見方をしていることでしょう。
両者は相反しているように見えながら、
実は、さくらももこの「純粋さ」という部分で繋がっています。
子供のように素直で純粋な人だったからこそ、一方で冷静かつ鋭い目も持つことができたのだと思います。
この記事では、そんなさくらももこの天才が遺憾なく発揮されたエッセイを
いくつかのジャンルに分けて紹介したいと思います。
おそらく、有名どころは色んな方がブログやTwitterで紹介されていると思いますので、
私は王道も紹介しつつ、ちょっと隠れた名作も一緒に紹介していきます。
ひねくれた感性炸裂の王道エッセイ
「さくらももこのエッセイ」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、
おそらく「とてもひねくれた感性なのに思わず笑ってしまう」という部分ではないでしょうか。
「ひねくれているのに面白い」は、
さくらももこの漫画、エッセイまで含め、彼女の作品に通底するテーマですが、
とりわけその印象が色濃く出ているのが、初期のエッセイ3部作です。
『もものかんづめ』『さるのこしかけ』『たいのおかしら』
と題された3つのエッセイ集は、3つすべてがミリオンセラー(!)を記録している
超大ヒットエッセイ集です。
90年代はじめに出版されたこれらのエッセイ集は、瞬く間に評判となり、
日本に一大エッセイブームを巻き起こしました。
その中から、いくつかピックアップして紹介したいと思います。
ネタバレしない程度に書いていますが、気になる方はご注意ください。
メルヘン翁
言わずと知れた傑作です。さくらももこの文体を世に知らしめた傑作エッセイ。
聞けば、雑誌連載当時、このエッセイに対する批判が2、3通編集部に届いたそうです。
それくらい衝撃的な作品でしたし、小学生だった私もこの作品だけはドキドキしながら読んだのを覚えています。
それにしても「メルヘン翁」というタイトルをつけるセンスには恐れ入ります……
『もものかんづめ』所収。
宴会用の女
こちらは、「メルヘン翁」と比べると若干マイナーな作品かもしれません。
さくらももこが、短大を卒業して東京でOLとして働いていた時代を書いた作品です。
タイトルにもある「宴会」のくだりが何とも哀愁をそそる一方、
その場の空気が察せられて、苦笑したくなるような作品です。
小学生だった私は、当然中島みゆきの歌など知りませんでしたが、
知らなくても笑わせる語り口はさすがとしか言いようがありません。
『もものかんづめ』所収。
健康食品三昧
短大生時代、デパートの健康食品売り場で働いていた時の話です。
確かに健康食品売り場はマイナーな売り場ですが、
たった一つのエピソードをここまで笑いに昇華できるのはすごい!
『もものかんづめ』所収。
明け方のつぶやき
「メルヘン翁」と並ぶほどの有名作ではないでしょうか。
さくらももこがこれまでにした無駄遣いのうち、特に無駄だったという「睡眠学習枕」
に関するエピソードです。
当時、吹き込む言葉のくだらなさと、その情景を想像してめちゃくちゃ笑いました。
『もものかんづめ』所収。
紹介作品が『もものかんづめ』所収作ばかりになっていまいましたね。
実際、初期3部作のなかでも『もものかんづめ』の面白さは群を抜いています。
もちろん、『さるのこしかけ』『たいのおかしら』も相当面白いですが、
『もものかんづめ』にはさくらももこのエッセンスが詰まっています。
懐かしい「あの頃」のエッセイ
さくらももこのエッセイの特徴は、幼少期から青春時代を書いた作品が非常に多いということです。
『あのころ』『まる子だった』『ももこの話』の少女時代3部作にとどまらず、
『ひとりずもう』や『おんぶにだっこ』でも、若かった時代の思い出が描かれています。
こうした時代を描いたエッセイの特徴として、
笑える要素はもちろんふんだんにあるのですが、それに加えて、
どことなく胸が締め付けられるような懐かしさも感じます。
少女時代から、人一倍鋭敏な感受性をもっていたさくらももこの目を通した文章が、
私たちが忘れていた何かを掘り起こしてくれるのだと思います。
風呂で歌をうたう
父ひろしに、一緒に風呂に入りながら流行の歌を教える話です。
私が読んだ当時すでに引退していた、ちあきなおみの「喝采」を教えるシーンでは
腹を抱えて笑いました。
知りもしない歌なのに、なんでこんなに面白かったんだろうと今でも不思議に思います。
余談ですが、後年この「喝采」を聞いて、
「こういう歌だったのか」と思うと同時に、ちあきなおみのファンになりました(笑)
『ももこの話』所収。
家庭教師のお兄さん
少し悲しくなるようなお話です。
単純な笑いとは少し性質を異にした、幼少期のストーリー。
姉と近所の子供数人を見ていた家庭教師のお兄さんと、まる子の交流を描きます。
最後のシーンは、文章のうまさとあいまって、強烈な印象を残しています。
『あのころ』所収。
目覚まし時計を買った話
ただただ褒められたいがために目覚まし時計を買うお話。
いつも寝坊で怒られているまる子は、前向きな姿勢を見せつけるために目覚まし時計を買うことを決断し、周囲にもそのことをアピール。
親や先生に褒めてもらおうと画策するが……というストーリーです。
こういう自虐ネタの完成度がものすごく高いのがさくらももこの特徴ですよね。
確かアニメでも同じエピソードが放映されていたはずです。
『あのころ』所収。
物理部の活動
時代は若干進み、舞台は高校時代。
物理部に入部したまる子が、無線通信の恥ずかしさに四苦八苦するお話です。
実は私も無線通信をやったことがあるのですが、
最初のあの文言の恥ずかしさはやっぱりみんな一緒なんですね(笑)
高校時代のエピソードはそれほど数が多くないため貴重です。
『ひとりずもう』所収。
あの日の奈良
短大生だったさくらももこは、学校の研修旅行で奈良に行き、
そこで一軒のお茶屋を訪れます。
それから16年後、国民的スタートして有名になったさくらももこが、
再びそのお茶屋を訪れた時のことを描きます。
読んでいるこちらが笑顔になるような、ほっこりするエピソードです。
『さくらえび』所収。
多彩な趣味のエッセイ
さくらももこと言えば、多趣味なことでも知られています。
『ももこの宝石物語』
「宝石ってこんなに人の心を虜にするものなんだ」と小学生ながらに思ったのを覚えています。
さくらももこが、世界のあちこちで宝石を買って買って買いまくります。
数十万する宝石をポンと買う描写もあり、「お金持ちなんだな」と思ったりしました。
私はこの影響で石に興味を持つようになり、珍しい石収集が趣味になりました。
静岡には「奇石博物館」という石の博物館があり、
そこで数百円のアメジストやルビーを買ってもらったのを覚えています。
『またたび』、『憧れの魔法使い』
旅に関するエッセイです。
さくらももこは世界各地を多く旅していますね。
単なる紀行文ではなく、独特の切り口でその街を語るので、その街に行ったことがある人でも十分楽しめると思います。
『またたび』では、ロンドン、グアム、ベニスなどの定番の観光地から、
ハバロフスク、チベットなどのマイナーな場所まで色々なところに行っています。
一方、『憧れの魔法使い』は、さくらももこが敬愛するエロール・ル・カインという画家を巡る旅なのですが、
「あなた、本当にこの人が好きなんですか?」と言いたくなるような様々な失態(?)と失礼が繰り広げられ、
読者をハラハラした気持ちにさせます。
番外編
エッセイではありませんが、私のオススメのさくらももこ作品を2つ紹介します。
永沢君
一部では話題になっているこの漫画。
ちびまる子ちゃんの登場人物「永沢君」にスポットライトを当て、
彼と彼の周りの人々(藤木くんや小杉)の中学生時代を描いた作品です。
永沢君の恬淡とした喋り口調がシュールで面白いのはもちろんなのですが、
私は城ヶ崎さんの屈折したエピソードが好きです。
ちょうど私が中学生の頃に読んだのですが、
思春期のモヤモヤしたどうしようもない感情が作品に溢れているようで、
エッセイとは違う意味で胸が締め付けられます。
めちゃくちゃ面白いので、オススメです。
神の力っ子新聞
これはさくらももこが好きな人の中でも上級者向けです。
さくらももこが、リミットをかけずに自分の世界観をそのまま出したらこうなったんだろうという作品です。
ふわふわしていて、何がなんだかわからなくて、夢でも見ているのかというような作品ですが、
読後感は不思議と爽やかです。
まだ見ぬさくらももこワールドを体験してみたい方は是非。
まとめ
こうして書いてみると、人生でさくらももこに影響された部分って本当に多いなと思いました。
小・中学生の頃の作文は、一生懸命さくらももこの文体を真似て書いていたし、
石や絵や熱帯魚が好きになったのもさくらももこの影響だし、
水虫にかかったときは、水虫治療のやり方までさくらももこの治療法を踏襲していました(笑)
こんな天才と時代を共有できたことは、本当に幸せでした。
エッセイも漫画ももう読めないのが残念ですが、その作品の素晴らしさはこれからもずっと変わりません。
秋の夜長に、もう一度さくらももこを読み直してみようと思います。