こんにちは、マスラオです。
悲しいことに、現代社会人の基礎知識となってしまったブレグジット。
今さら人に聞けないEU離脱までの流れを時系列でまとめてみました。
そもそもブレグジットとは何なのか
教科書的には、以下のように説明されます。
イギリスが欧州連合から離脱することを指す。Brexitは"British"と"exit"の混成語である。2016年6月23日の国民投票の結果、投票者の51.9%がEUを離脱することを選択したことによる。(Wikipediaより)
欧州連合とは、EUのことで、
ヨーロッパ地域の国々による、政治的・経済的な超国家的枠組みのことです。
EU域内での関税の優遇、ヒト・モノの自由な移動など様々なメリットがあります。
イギリスは、1973年に加盟し、40年以上に渡ってEUの一員でしたが、
今回、イギリスがEUから脱退することを「ブレグジット」と呼んでいます。
ブレグジットにいたる時系列
EUから離脱する国は、今回のイギリスが史上初となります。
現在、離脱にいたる法令や手続き上の不備などが明らかになってきていますが、
国際的な枠組みからの離脱は、基本的には以下が想定されます。
①国内での合意→②EUへの通達→③離脱にかかわる事務的な作業
イギリスも、上記手順に従い、粛々と離脱を進める予定でした。
国民投票から離脱通告へ
ブレグジットにおける、①国内合意から②EUへの通達までの時系列をまとめてみます。
発端は、2019年6月23日に行われた、EUからの離脱の是非を問う国民投票でした。
僅差ではあるものの、離脱支持派が残留支持派を上回り、
これにより、イギリス政府はEUからの離脱を進めていかねばならなくなりました。
リスボン条約第50条とは何か
さて、実際に離脱の手続きは、何でどのように定められているかと言うと、
リスボン条約というEUに関する基本条約の中で定められています。
リスボン条約第50条によると、EUから離脱したい国は、
離脱通告から2年以内にEUからの離脱を完了させる必要があります。
イギリスのテリーザ・メイ首相は、2017年3月29日にEUへ離脱通告を出し、
ちょうど2年後の2019年3月29日までを離脱期限としました。
ただし、この条項は、厳格に守られる性質のものではなく、
後ほど記述するように、状況によって柔軟に変更することが可能なようです。
離脱協定案の度重なる否決
2018年11月までに、離脱の具体的な方法について定めた離脱協定案が
イギリス政府とEUの間で合意されました。
主な合意内容(BBCより)
・英国がEUとの関係を断つための清算金390億ポンドを支払う
・在EU英国民と、在英EU市民への影響
・北アイルランド(英国領)とアイルランドの間に物理的な管理体制を敷かない
あとは、イギリス議会で上記の離脱協定案が承認されれば良いのですが、
離脱案は修正案も含めて、2019年1月15日、3月12日、29日の三度否決されました。
否決の理由は、離脱案の中に「バックストップ」を盛り込んでいたからだとされます。
バックストップとは、野球で、キャッチャーが取り逃がしたボールが
後ろにいかないようにする安全網のようなもので、
イギリスがEU離脱後、仮にEUとの経済関係の構築が難航しても、
EU加盟中と同じような経済体制を敷くことで、影響が出ないようにするものです。
離脱案反対派としては、バックストップを盛り込むと、いつまで経っても
EUから真に独立したとは言えないということのようです。
時事ドットコムの以下の記事にも、否決理由がわかりやすく書いてあります。
EU離脱修正案もなぜ否決?=英議会、「安全網」に不満-ニュースQ&A:時事ドットコム
結局離脱期限は延長
当初の予定では、離脱期限は2019年3月29日でしたが、
結局期限までにイギリス国内で離脱案の合意ができませんでした。
「合意なき離脱を避けたい」というイギリス議会の動議と、
リスボン条約第50条の延長を求める動議の2つが可決され、
結局離脱期限は、EU側の譲歩で、2019年10月末までと大きく後ろ倒しされました。
ブレグジットはイギリスの利益になるのか
こうして時系列でみてみると、EU離脱のためのハードルは、
想像以上に数が多く、一つ一つが困難なものであることがわかります。
そもそも、イギリス国内でも半分程度の人は離脱反対派ですし、
国内の合意形成をしていくだけでも、非常に骨の折れる仕事です。
一体、ここまでするほど、ブレグジットは英国の利益になるのでしょうか。
イギリス人は移民を抑制したい
EU離脱によって、EU域内からの移民を抑制したいという考えがあります。
2004年にEU加盟国は東欧へと拡大しましたが、
比較的豊かな西欧と異なり、東欧では生活のために西欧に移住する人が多いです。
イギリスは、元来移民には寛容な国でしたが、
移民の増加により、社会保障費の増大を懸念し、移民抑制に舵を切りました。
国境概念の希薄なEUに留まれば、移民抑制策の意味がなくなってしまうというのが、
離脱賛成派の主張です。
光栄ある孤立
先の移民の話とも関連してきますが、イギリスは歴史的に孤独な国です。
これは、第二次世界大戦が終わるまで、長らく世界のヘゲモニーを握ってきたプライド
からそうさせる面もあるでしょうし、
一方で、孤立を貫くことで得られる経済的なメリットもあります。
たとえば、イギリスは、EUの基軸通貨であるユーロを導入していません。
イギリスは、世界一の金融センターと呼ばれることからもわかる金融立国ですが、
通貨の種類が多いことにより、取引量が増加するメリットがあります。
プライドと実益、両方の性質を兼ね備えた「孤立主義」が
欧州を席巻する移民排斥思想と保守主義と結びついて、
EU離脱という極端な方針に走らせた可能性があります。
今後、イギリスはどうなるのか
離脱取り消しはありえるのか
離脱劇の結末がどうなるのかは、誰にもわかりません。
場合によっては、離脱延期だけではなく、離脱そのものを撤回する可能性もあります。
欧州司法裁判所は、「無条件かつ誠意をもって離脱をキャンセルした場合、
その国は一方的にEUからの撤退を取り消すことができる」と判決しました。
この判決に対し、英国政府は、離脱を取り消すことはないとしていますが、
選択肢として、離脱を取りやめることも可能になったのは事実です。
10月末までに、離脱案がまとまらなければ、
再度の国民投票も、現実的になってくるかもしれません。
イギリス経済はどうなるのか
PwCによると、以下のような見通しが立てられています。
・英国の成長率は2019年には1.1%に低下し、2020年には1.6%の緩やかな上昇にとどまる
・個人消費の成長率は、2018年の1.9%から2019年は1.4%程度に減速する
・イングランド銀行(英中央銀行)は2019年下期に0.25%から1%程度、政策金利を引き上げる
2019年中の景気減速は、既定路線といったところでしょうか。
ただし、離脱後、1年間は移行期間となり、
EUの諸規則が適用されなくなる本格的な離脱はそれ以降になります。
現在、複数の日本企業の欧州拠点がイギリスから撤退していることもあり、
EU撤退による英国の不景気は、2020年以降も続くことになるでしょう。