こんにちは、マスラオです。
本日紹介する映画は、コーエン兄弟を一躍有名にしたサスペンス映画『ファーゴ』。
古き良きアメリカの田舎町を舞台に起こる凄惨な殺人事件と、
事件を取り巻く関係者たちの錯綜する心情を描いた作品です。
ストーリー
物語の舞台は1987年、ミネソタ州ミネアポリス。
自動車販売店の営業部長であるジェリー・ランディガードは、
不動産投資のための金を得るため、妻ジーンの狂言誘拐をたくらみ、
社長であり裕福な義父ウェイドから8万ドルの身代金をせしめる計画を立てる。
ジェリーは、ノースダコタ州ファーゴで、自動車整備工場の作業員から紹介された
カールとゲアという二人のチンピラ(実行犯)と打ち合わせを行い、
妻ジーンの誘拐用兼報酬として、販売店から持ち出した車を引き渡す。
ジーンの誘拐に成功したカールとゲアだったが、
アジトへ向かう途中、パトロール中の警察官を射殺してしまい、
さらにその凶行を目撃した一般人二人も射殺してしまう。
妊娠中の女性警察署長マージは、殺人事件の捜査に乗り出し、
地道な聞き込み調査により、犯人の行方と事件の全貌を解き明かしていく……
※Wikipediaの記載を加筆・修正
フィクションであり、フィクションでない
「これは、本当にあったお話です……」
小学生の頃、『怪談レストラン』という怪談のシリーズ本が大好きでした。
確か、その本のまえがきだったと思いますが、こんな文章があったのを覚えています。
怪談の導入に使われる「これは、本当にあったお話です」という一文。
この一文から、すでに物語(=フィクション)は始まっているのです。
この文章は、フィクションの一部で、演出の一種なのです。
本当にあったかどうかは作者にしかわかりません。
「子供向けの本にこんな舞台裏を書くな!」と今だったら思ってしまいそうですが、
当時の私は、なるほどと深く感心したのを覚えています。
怖い話が少しだけ怖くなくなったのも、この文章を読んでからかもしれません。
『ファーゴ』における物語の語られ方
『ファーゴ』においても、同様の手法が取られています。
映画の冒頭、物悲しい音楽にのせて、以下の文章がスクリーンに表示されます。
これは実話の映画化である。
実際の事件は1987年ミネソタ州で起こった。
生存者の希望で人名は変えてあるが、死者への敬意を込めて
事件のその他の部分は忠実な映画化を行っている。
いかにも、本当らしく書かれていますが、ここですでに物語は始まっています。
実際には、1987年にミネソタ州でこのような事件は起こっていないし、
生存者も死者も、事件そのものがないので存在しません。
一見、ただのいたずら心からの演出かと思いますが、
この文章があるのとないのとでは、物語の没入感はまったく異なります。
鑑賞者が、「これは本当にあった話なんだ」と思うことで、
舞台やセリフ、画の力にリアリティがグッと増します。
淡々と進むが、濃密な物語
この映画は、盛り上がりどころがはっきりした映画ではありません。
事件の犯人は最初からわかっているし、謎解きのワクワク感はありません。
署長がどのように犯人に到達するかというのを、
追う側と追われる側双方の目線で見られるというドキドキ感はありますが。
それだけに、アメリカの鬱々とした田舎町の雰囲気を十分堪能できます。
ロードサイドの食堂、肉が多すぎる昼食、荒涼とした大地の幹線道路など
この時代のアメリカの雰囲気が好きな人にはたまらないと思います。
アカデミー脚本賞をとっただけあり、1時間40分画面に食い入ってしまいます。
映画を支える役者たちの好演
妊娠中の設定が謎の女性署長
一般的に、この映画で注目される役どころは、
フランシス・マクドーマンド演じる妊娠中の女性署長でしょう。
日本人には違いがあまりわかりませんが、ミネソタ訛りの英語を完璧に習得し、
この年のアカデミー主演女優賞に輝いています。
また、2003年に発表された「アメリカ映画100年のヒーローと悪役ベスト100」では、
ヒーローの第33位に、マージがランクインしています。
犯人役の演技が素晴らしい
私が驚いたのは、犯人役の2人のリアルさです。
スティーブ・ブシェミと、ピーター・ストーメアという一癖ある2人の俳優が
この映画の犯人役なのですが、
いたるところで「変な顔」と言われるおしゃべりな小男役のブシェミと、
寡黙で何を考えているかわからない大男役のストーメアの対比が、
ある種の滑稽さとともに、時折ゾッとする怖さも感じさせます。
特に、怖いのはストーメアで、物語の序盤から最後までずっと寡黙で、
それでも発作的に信じられないような行動をとります。
レクター博士とは性質の異なる、「考えない」人の怖さを見事に表現しています。
ちなみに、ストーメアは実生活では日本人の女性と結婚しており、
プライベートの写真は柔和な笑顔で、当たり前ですがとても常識人そうです。
マイク・ヤナギダの謎
物語を彩る脇役の一人として、マイク・ヤナギダという人物が出てきます。
彼は、名前からもわかる通り日系人で、マージの大学時代の同級生です。
事件のニュースにマージが警察署長として出ているのを見て、
マージに会いたいと連絡してきます。
このマイク・ヤナギダですが、メインストーリー上は、何の意味もないです。
いてもいなくても物語は成立しますし、なぜ監督がこの人物を登場させ、
ある程度の尺をとって、彼に喋らせたのかはわかりません。
単に、事件のヒントを得るだけだったら、もっと簡単な方法がありますし、
監督の何らかのメッセージが込められていると言ってもいいでしょう。
この人物が出てきた意味を考えるだけでも1日過ごせます。
単なるサスペンスではなく、心に残る映画
見終わった後も心に重しのように残るのが名作だと思いますが、
その意味では、『ファーゴ』は、間違いなく名作です。
『ノー・カントリー』に通づるコーエン兄弟の出世作として、観るべき1本です。
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