今回レビューするのは、『Florence』というノベルゲームです。
同じくiOS/Android用ゲーム『Monument Valley』を製作したKen Wongさんという方が中心となって設立した「Mountains」というスタジオが開発した作品です。
ゲーム概要
◾︎タイトル:Florence
◾︎対応ハード:iOS、Android
◾︎ジャンル:インタラクティブノベル、ミニゲーム
◾︎初リリース日:2018年2月14日
◾︎価格:370円(iOS)、330円(Google Play)
◾︎開発元:Mountains
同スタジオの事実上の前作である『Monument Valley』は、美しいアートスタイルで話題になりました。
本作『Florence』も、種類は違えど、製作者のこだわりが感じられる美しいグラフィックは健在です。
本作は、英国アカデミー賞のモバイルゲーム賞や、TGAのベストモバイルゲームなど、有力な賞を多数受賞しており、2018年のモバイルゲームの中で最高の評価を受けたタイトルの一つとなっています。
退屈な若者の生活が恋によって変わっていく
20代の孤独と退屈
本作のタイトル『Florence』は、主人公の名前です。
主人公である「フローレンス・ヨー」は、都会に住む25歳の女性。
毎日、家と会社の往復で、日常を無為に消費しています。
通勤電車では、Twitterの投稿に延々と「リツイート」と「いいね」をしていく作業。
会社に着いてからは、与えられたタスクを淡々とこなしていくだけ。
たまにかかってくる母親からの電話には気の無い返事をする。
仕事が終われば、そのまま家に帰って、歯磨きをし、明日に備えて寝るだけです。
なんだか自分の日常を覗かれているようではありませんか?
きっと、現代の若者の日常を切り取ったら、大抵がこんな風になるのでしょう。
恋が人生を変える
ゲームは、フローレンスが、路上でチェロを弾く男性に出会うことで大きく変わります。
名前も知らないその男性に、フローレンスは恋をし、昼も夜もその人のことを考えるようになりますが、ある出来事がきっかけで、二人は付き合うことになります。
退屈だった毎日は、彼とのイベントで彩られ、フローレンスの日常は笑顔でいっぱいになります。
フローレンスの生活は、次第にリアルな生の喜びを取り戻していくのです。
「ゲーム性」はないが、ゲームでしか体験できない物語
本作は、「ゲーム」の体裁をとっていますが、「インタラクティブノベル」と称される通り、ほとんどゲーム性はありません。
アイテム収集も謎解きも、分岐もマルチエンドも、ゲームオーバーもないのです。
『Florence』のゲーム性を担保するもの。
それは、プレイヤーの操作によって、登場人物の心情をわかりやすくすることです。
たとえば、道を歩いているフローレンスが、どこからともなく流れてくる音色につられ、その音符をタッチしていくと、次第に足取りが軽くなり、果ては楽しげな表情で宙に浮いてしまいます。
音色に惹かれて心が軽くなる様子が、インタラクティブに表現されています。
◾︎『Florence』のアクション例
・時計の針を回していくと、写真の中の人物が歳を重ねていく
・撮ったばかりのポラロイド写真を振ることで、徐々に写真が鮮明になっていく
・会話の吹き出しにはめ込むパズルの数や形で、緊張や感情を伝える
ゲームでしか表現できない方法で、『Florence』は、プレイヤーの心に訴えかける物語を紡いでいきます。
洗練されたアートスタイル
コンシューマーゲームにおける進化の歴史は、ニアリーイコール「ハードのスペックが上がったことによるグラフィックの進化の歴史」でした。
HD機が登場して以降のAAAタイトルは、グラフィックの美しさによってマーケティングが行われることが常でした。
一方、コンシューマーに比べ馬力がないモバイルゲームは、独自の進化を遂げます。
高精細なグラフィックでコンシューマーに太刀打ちできない分、デザイナー特有のセンスを、どれほど盛り込めるかが勝負になってくるのです。
『Florence』のグラフィックは、子供向けの単純なアニメーションのようですが、繊細でピュアな物語を伝えるための「手段」としては、これ以上のものはないと言えます。
自分自身が、このかわいくて切ない物語の一員であるかのように感じられるのは、きっとフォトリアルなグラフィックでは実感できなかったでしょう。
ゲーム版『ラ・ラ・ランド』なのかもしれない
『Florence』は、全体的に、2017年の映画『ラ・ラ・ランド』を思わせます。
夢を追う二人の男女。
遅れてきた青春、最高に楽しい日々、二人の危機、そして思い出。
恋というのは、常に楽しいものではなく、ほろ苦さを含んでいます。
このゲームは、恋から生まれる苦難を乗り越えるためにどうすれば良いのかを考えるきっかけをくれます。
まだ恋をしたことのない人よりは、恋愛の楽しさも苦しさも経験した人がプレイすると、心に響くものがあると思うので、オススメです。
※音楽が素晴らしいので、プレイ時はイヤホンかヘッドホン必須!