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『DEATH STRANDING』は、SF史に残る完璧な世界観を創りあげた

今回レビューするのはPS4用ゲーム『DEATH STRANDING』です。

元KONAMIの小島秀夫監督コジマプロダクション設立後初作品となります。

 

 

 

ゲーム概要

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◾︎タイトル:DEATH STRANDING

◾︎対応ハード:PS4

◾︎ジャンル:アクションアドベンチャー

◾︎発売日:2019年11月8日

◾︎開発元:KOJIMA PRODUCTIONS

 

『DEATH STRANDING』(以下『デススト』)は、諸事情により小島監督がKONAMIを退社し、独立して小島プロダクションを立ち上げてから初の作品です。

 

「MGS」シリーズで存分に発揮されていた小島監督独自のゲームデザインは、新規IPとなった本作でも衰えることを知らず、久しぶりの「A hideo kojima game」の名前にふさわしく、小島監督ならではのセンスと遊び心がたくさん詰まったゲームに仕上がっています。

 

多くのGOTYにノミネート、さらに受賞している本作は、PS4の円熟期を迎えた今、ゲーマーにとってプレイ必須のタイトルになるでしょう。

 

重厚な世界観を紐解いていく楽しさ

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『デススト』は、同じく小島監督による作品である「MGS」シリーズと比較すると、とてもストーリーが難解な作品です。

 

「MGS」シリーズも、難解であることに違いはないのですが、『デススト』の難しさと「MGS」シリーズの難しさとは質的に異なります。

 

MGSと何が違う? 

「MGS」シリーズの難しさの要因は、以下のような点であると考えます。

 

・シリーズ作品の増加による物語の多階層化

・国際政治・軍事情勢に関する知識を必要とする

・独自用語の頻出

 

しかし、『デススト』においては、3の「独自用語の頻出」以外は当てはまりません。

 

『デススト』が難しいのは、「MGS」シリーズと比べて、「今までになかった世界」を描こうとしているからだと私は考えます。

 

とにかく「わからない」が基本

ふたたび、「MGS」との比較で見てみましょう。

 

たとえば、『Metal Gear Solid 3』のあらすじを簡単に書くとこんな感じになります。

 

舞台は冷戦只中の1964年。CIA工作員である主人公スネークは、ソ連奥地に潜入し、機密文書の入手や、大量破壊兵器の無力化などのスパイミッションをこなしていく。

 

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言葉で書くと、非常に簡潔でわかりやすいストーリーですよね。

 

一方、『デススト』のあらすじを書くとこんな感じになります。

 

「デスストランディング」によって、繋がりが分断され崩壊した世界において、主人公サム・ポーター・ブリッジズは、アメリカを再建するため、大陸を横断し、カイラル通信をつないでいく。

 

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この記事を読んでいる人は、ある程度『デススト』について知っている人が多いと思うので、上の説明でも十分伝わると思うのですが、『デススト』をまったく知らない人にとっては、チンプンカンプンでしょう。

 

・「デスストランディング」とは何なのか?

・「繋がりが分断された世界」とはどんな状況なのか?

・「カイラル通信をつないでいく」とは何を意味するのか?

・なぜそれが「アメリカを再建する」ことになるのか?

 

あらすじを読んだだけで。すでに疑問が尽きないのが『デススト』です。

この「わからなさ」は、『デススト』特有のものであると言えます。

 

想像力で世界を描く

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『デススト』では、終盤までストーリーの全貌が掴めません。

 

前提となる世界観が共有されていないため、世界を読み解いていくのにも、断片的な情報から、「おそらくこうではないか?」と推理し、自分の頭の中で世界の成り立ちを想像していく必要があります。

 

なぜ、小島監督は『デススト』をここまで読み解きにくい物語にしたのか?

 

それは、『デススト』を、良質なSF映画のように、「世界を描く」ものにしたかったからだと思います。

 

かつて、小島監督は、「映画『マッドマックス』では、マックスが名前を聞かれ、「My name is Max」しか言わないから良いのだ。ここで自分の生い立ちや、『実は……』といった身の上話を始めたら台無しになる」といったツイートをしていました。

 

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『マッドマックス』では、マックスは自分を語らない男として描かれる

 

わからないことをすべて言葉にしてしまっては、物語に奥行きが出ないし、プレイヤーの知的欲求を刺激する方法としても良くありません。

 

世界を描くためには、あえて語らないことも重要なのです。

 

新しいSFのスタンダードが誕生

『AKIRA』『ブレードランナー』『トータルリコール』『マトリックス』など、SF史に名を残す作品は、その後数十年に渡って創作されるコンテンツに影響を及ぼすような、強烈な世界観を持っています。

 

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『AKIRA』のネオ東京は、その後のSF作品に大きな影響を与えた

 

私は、『デススト』は、上に挙げたような傑出したSF作品と同様に、今までのSFの枠の外にある新たなスタンダードを創ろうとした試みであったと思います。

 

まずは、『デススト』の世界にどっぷり浸かること。

 

ここまで精緻に織り込まれた、全く新しい世界を探検できる喜びは、他にありません。

 

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「身体性」と「リアリティ」の追求

『ワンダと巨像』『人喰いの大鷲トリコ』で知られるゲームデザイナーの上田文人さんは、ゲームを作るときに、「この世界がどこかに存在すると思える」ことを大切にしていると言います。

 

「この世界は本当にどこかに存在する」と信じられるほどリアリティのあるゲームを創るにはどうすれば良いか?

 

私は、「身体性」「細部のリアリティ」が重要だと考えています。

 

たとえば、『デススト』において、身体性があると感じた表現は以下のようなものです。

 

・サムの動きが軽くない

・移動には常に困難が伴う

・体の汚れはシャワーを浴びないととれない

・小便や大便ができる

・etc……

 

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何気に重要なのが「動きが軽くない」こと。

 

最近の三人称視点のゲームをやっていて良くないと感じるのが「動きの軽さ」です。

 

スティックを少し前に倒しただけで、規則的な動きでずっと走り続け、疲れを感じることがないようなアクションを見せるゲームが多いですが、そうした軽い動作は、ゲームを安っぽくしてしまいます。

 

人間の体を動かすには、かなりのパワーが必要なはずで、ただ歩くだけにしろ、一歩一歩地面を踏みしめる体重の感覚がプレイヤーに伝わってきてほしいものです。

 

『デススト』では、荷物を背負っていないときでも、どしどしと走るサムの体重がコントローラを通じて伝わってきますし、荷物を背負っているときであればなおさら、動きの重さや不安定さで、大地を踏みしめる実感を得ることができます。

 

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また、細部にわたるリアリティを感じたのは以下の点です。

 

・荷物を載せる棚に、「足を乗せるな」等の注意書きがある

・雪山での乗り物のスピードが著しく遅い

・リサイクルしたときの大統領からの「Thank you」の表示

・etc……

 

どれも細かいものなんですが、こういうものが蓄積していくと、この世界が段々所与のものに思えてくるから不思議です。

 

現実世界でも、自動で動く装置には「気を付けてください」的な注意書きがありますよね。

あるいは、サービスを利用したら「ご利用いただきありがとうございます」の表示がされたり。

 

そういうものがゲーム世界でも表現されていると、「この世界は今自分がいる世界と地続きのものなんだ」と感じられます。

 

徐々にハマって配達中毒になっていく

『デススト』は、非常に賛否の分かれるゲームです。

「ゲーム史上最高傑作」と言う人もいれば、「3時間で辞めた」と言う人もいます。

 

とりあえず、3章まではクリアしよう

個人的には、「3章までを乗り越えられるかどうか」が、『デススト』を真に楽しめるか否かの分水嶺になると思っています。

 

3章をクリアすると、ストーリーは核心に迫って走り出しますし、作成できる建造物もあらかた出尽くすので、プレイの幅が広がります。

 

また、ネタバレになるので詳しくは書けませんが、3章以降はサムが行くことになるステージもかなりバラエティに富んだものになります。

 

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サムが行くことになるのは、現実世界だけではありません

 

これは、3章までがつまらないと言っているわけではありません。

 

3章までに、いくつもの配送依頼をこなし、この世界に馴染んだ上で、さらに次なる展開を求めている人には、3章以降の展開は面白くなるだろうということです。

 

正直、私も当初は「配達するだけのゲームが本当に面白いのか?」と考えていましたが、プレイヤーを飽きさせない工夫でどんどん配送中毒になっていきます。

 

地形と時雨のレベルデザインが絶妙

サムが配送する範囲はアメリカ大陸全土に及びます。

 

時には陸の孤島とも思われる険しい山の頂上に配達することもありますし、雪山を乗り越えた先にある街まで必死でたどり着くこともあります。

 

サムの配送を単純なものにしない2つの要素が、「地形」「時雨」です。

 

最短距離を行こうと思ったら道なき道を進むことになってしまい、結局迂回して平坦な道を行くことになったり、一歩先が崖だと気付かずにバイクで突っ切って落下し、荷物を壊してしまったりと、配達するための「道選び」がゲームを円滑にプレイするための重要な要素になっています。

 

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どんなルートを通っても目的地にたどり着きさえすれば良いので正解はないのですが、何の障害もなく配送を完了できた時は、「(自分的な)正解きた!!」とテンション爆上げです。

 

なので、マップ画面とにらめっこしつつ、地形を勘案して配送ルートを決めるのが面白さの一つなのですが、さらに配送を予想できないものにするのが「時雨」の存在です。

 

時雨が降っている地域では、持っている荷物の劣化が進みやすいので、なるべく早く通り抜けなければなりません。

 

しかし、時雨の降っている場所に高確率でいる「BT」につかまると、逃げたり戦ったりしている間に時間をロスしますし、最悪の場合荷物を失ってしまいます。

 

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生半可なホラーゲームより怖い「BT」の存在

 

最短と思われるルートには大体このBTがいるので、彼らを避けて安全な道を行くのか、多少危険でも突っ切るのか、そのあたりの選択にもゲーム性があって面白いです。